水草の花

お読みくださいまして、ほんとうにありがとうございます

水草の花 31 



 佐藤は公務員試験に合格し、
 働きながら夜間大学に通っている。

 山口は学校の先生になるために浪人中。

 青山は好きなコーヒーをきわめようと
 カフェめぐりをしている。

 優君はすごいゲームを作ると
 専門学校ではりきっている。


 短大に入った水沢さんは、
 花屋さんでアルバイトができるようになった。

 僕は美大で、やっぱり点描を描いている。

 そういえば、
 人はスーラの点描に似ている。
 人と人とはまざらなくていい。
 一緒にいる、
 それだけで輝く。



 今日は水沢さんとピカソの展覧会だ。

 つり革をもてない水沢さんは
 僕の腕をつかんでいる。



 水沢さんはとてもかわいい。


 水草の花を思い出す。



 

 





 一章  小さな白い花












水草の花 30 

 

 今日、退院した。

 1カ月もお世話になった。

 靴をはいた。
 足がやせて、ぶかぶかになっていた。

 看護師さん達が見送ってくれた。

 水沢さんが家までつきそってくれた。



 自分の部屋がなつかしく感じる。

「 良かったね。」

「 うん ・・・ 水沢さん、あのときはほんとうにごめん。」

「 え 、  」

「 僕が無理やり、」

「 ・・・ 私が弱いから、」

「 弱くなんかない、よくがんばったよ。」

「 私 ・・・ 迷惑かける。」

「 いや、できないことは僕がする。」

「 ・・・・・ 」

「 何か心配だったら、僕も考える。」

「 ・・・・・ 」

「 大丈夫だよ。」

「 私は何もしてあげられない。」

「 そんなことない、一緒にいてくれる。」

「 ・・・ 」

「 いつも、 ありがとう を言える水沢さんと一緒にいたいんだ。」

「 ・・・・・・ 」

「 ずっと一緒にいてほしい。」


「      うん 」

「 水沢さん ・・・ 」

「  ありがとう  長谷川君  

 


 白い頬をつたって、

 涙が光る。












水草の花 29 



 水沢さんが帰ってすぐ、青山と優君が来てくれた。

「 大丈夫か? 」
「 うん、大丈夫。」

 かなり心配してくれていた。

 一緒によく遊んだゲームの話などしていたが、
 おもいきって、これまでのことを話した。


「 優が誰でも気がつく障害だから、いろいろあったよ。」
「 小学校のとき、いじめられた。」

 青山は、そのたびにケンカをしたそうだ。
 弟を守ることに必死で、相手をねじふせようとした。

 優君が言う。
「 でも違う。これではだめ。ふっきる?胸をはる?そんな感じ? 」

 青山が続ける。
「 ゲームばっかりするようになって、どんどんうまくなって、
  そうしたら友達ができてたね。」

「 歩いてたら、ひそひそしゃべってるおとなもいたよ。」
「 でも、気にしないように決めた。」
「 そのうち、気にならなくなったよ。」

 はじめて優君と会ったとき、正直、驚いたことを思い出した。
 でも次に会ったときには、とくに何も感じていなかった。
 ふつうだった。

 青山は言った。
「 受け入れてなかったのは、自分自身だったかもね。」

 僕は、なにか一気にこみあげた。

 涙がおさえられない。
 ボタボタおちる。



 ふたりは、ほんとうにすごい。

 こんな友達がいて、僕は幸せだ。


 ありがとう 青山

 ありがとう 優君














水草の花 28 



 水沢さんは、毎日、お見舞いに来てくれた。

 一生懸命、しゃべってくれた。
 学校での話、本の話、花の話 ・・・
 とても心が安らいだ。

 血液検査の数値がかなり下がった。
 歩けるようになった。
 水沢さんも喜んでくれた。


 体が楽になるにつれて、
 よりいっそう、あの日のことが思い出される。

 「 もう、ほっといて  」

 ほんとうにそれでいいのか
 僕はどうしたらいいのか



 僕は、水沢さんを助けたい ・・・







水草の花 27 



 次に目がさめたのは翌日だった。

 水沢さんが座っていた。


「 ・・・ 私のせいで 、」

 うつむいて言った。

「 ごめんなさい うっ うっ ごめんなさい ・ ・ ・ 」

 泣きながら声をおし出す。



「 僕 が 悪 か っ た ん だ 。

 声がかすれてうまくしゃべれない。

「 水 沢 さ ん 、ご め ん 。

 あとはしゃべれなかった。




 水沢さんは長く横にいてくれた。

 僕は力が入らず、座ることもできなかった。

 でも ・・・ 良かった。

 まだ終わりじゃない。









水草の花 26 



「 もう大丈夫だからね。」

 知らない人の声がする。
 白い部屋でねている。

 緊急入院だった。

 点滴の管が腕と、足のほうにもある。

 3日間、意識がなかったと
 看護師さんから聞かされた。

 肝臓の病気だった。
 血液検査の数値が 3000 に近い。
 かなり悪かったと院長先生から言われた。

「 もう、しっかりしてよ。」
 母親は少し声がふるえていた。

 気持ち悪さがましになっていた。

 弟の明良もいる。
「 兄ちゃん、水沢さんが来てくれてたよ、
  ほら、その花、」

 小さな白い花が見えた。

 あのつらさが思い出されてくる。

 再び意識がとおくなる。








水草の花 25 



 気がついたら、
 自分の部屋のベッドで天井を見ていた。


 気持ち悪い

 吐きそうだ

 眠れない

 吐く

 気持ち悪い

 吐く





 まわりが明るくなってきた。

 また吐く。

 もう30回ほど吐いただろうか。

 意識がもうろうとする。

 目があかなくなってきた。



「 兄ちゃん、 兄ちゃん、 」

 弟の声がする。



「 兄ちゃん ! 」

「  ・ ・ ・ ・   ご め ん   く る し い  」