水草の花 30
今日、退院した。
1カ月もお世話になった。
靴をはいた。
足がやせて、ぶかぶかになっていた。
看護師さん達が見送ってくれた。
水沢さんが家までつきそってくれた。
自分の部屋がなつかしく感じる。
「 良かったね。」
「 うん ・・・ 水沢さん、あのときはほんとうにごめん。」
「 え 、 」
「 僕が無理やり、」
「 ・・・ 私が弱いから、」
「 弱くなんかない、よくがんばったよ。」
「 私 ・・・ 迷惑かける。」
「 いや、できないことは僕がする。」
「 ・・・・・ 」
「 何か心配だったら、僕も考える。」
「 ・・・・・ 」
「 大丈夫だよ。」
「 私は何もしてあげられない。」
「 そんなことない、一緒にいてくれる。」
「 ・・・ 」
「 いつも、 ありがとう を言える水沢さんと一緒にいたいんだ。」
「 ・・・・・・ 」
「 ずっと一緒にいてほしい。」
「 うん 」
「 水沢さん ・・・ 」
「 ありがとう 長谷川君 」
白い頬をつたって、
涙が光る。
水草の花 29
水沢さんが帰ってすぐ、青山と優君が来てくれた。
「 大丈夫か? 」
「 うん、大丈夫。」
かなり心配してくれていた。
一緒によく遊んだゲームの話などしていたが、
おもいきって、これまでのことを話した。
「 優が誰でも気がつく障害だから、いろいろあったよ。」
「 小学校のとき、いじめられた。」
青山は、そのたびにケンカをしたそうだ。
弟を守ることに必死で、相手をねじふせようとした。
優君が言う。
「 でも違う。これではだめ。ふっきる?胸をはる?そんな感じ? 」
青山が続ける。
「 ゲームばっかりするようになって、どんどんうまくなって、
そうしたら友達ができてたね。」
「 歩いてたら、ひそひそしゃべってるおとなもいたよ。」
「 でも、気にしないように決めた。」
「 そのうち、気にならなくなったよ。」
はじめて優君と会ったとき、正直、驚いたことを思い出した。
でも次に会ったときには、とくに何も感じていなかった。
ふつうだった。
青山は言った。
「 受け入れてなかったのは、自分自身だったかもね。」
僕は、なにか一気にこみあげた。
涙がおさえられない。
ボタボタおちる。
ふたりは、ほんとうにすごい。
こんな友達がいて、僕は幸せだ。
ありがとう 青山
ありがとう 優君
水草の花 28
水沢さんは、毎日、お見舞いに来てくれた。
一生懸命、しゃべってくれた。
学校での話、本の話、花の話 ・・・
とても心が安らいだ。
血液検査の数値がかなり下がった。
歩けるようになった。
水沢さんも喜んでくれた。
体が楽になるにつれて、
よりいっそう、あの日のことが思い出される。
「 もう、ほっといて 」
ほんとうにそれでいいのか
僕はどうしたらいいのか
僕は、水沢さんを助けたい ・・・
水草の花 27
次に目がさめたのは翌日だった。
水沢さんが座っていた。
「 ・・・ 私のせいで 、」
うつむいて言った。
「 ごめんなさい うっ うっ ごめんなさい ・ ・ ・ 」
泣きながら声をおし出す。
「 僕 が 悪 か っ た ん だ 。」
声がかすれてうまくしゃべれない。
「 水 沢 さ ん 、ご め ん 。」
あとはしゃべれなかった。
水沢さんは長く横にいてくれた。
僕は力が入らず、座ることもできなかった。
でも ・・・ 良かった。
まだ終わりじゃない。
水草の花 26
「 もう大丈夫だからね。」
知らない人の声がする。
白い部屋でねている。
緊急入院だった。
点滴の管が腕と、足のほうにもある。
3日間、意識がなかったと
看護師さんから聞かされた。
肝臓の病気だった。
血液検査の数値が 3000 に近い。
かなり悪かったと院長先生から言われた。
「 もう、しっかりしてよ。」
母親は少し声がふるえていた。
気持ち悪さがましになっていた。
弟の明良もいる。
「 兄ちゃん、水沢さんが来てくれてたよ、
ほら、その花、」
小さな白い花が見えた。
あのつらさが思い出されてくる。
再び意識がとおくなる。
水草の花 25
気がついたら、
自分の部屋のベッドで天井を見ていた。
気持ち悪い
吐きそうだ
眠れない
吐く
気持ち悪い
吐く
まわりが明るくなってきた。
また吐く。
もう30回ほど吐いただろうか。
意識がもうろうとする。
目があかなくなってきた。
「 兄ちゃん、 兄ちゃん、 」
弟の声がする。
「 兄ちゃん ! 」
「 ・ ・ ・ ・ ご め ん く る し い 」