水草の花

お読みくださいまして、ほんとうにありがとうございます

2018-01-01から1年間の記事一覧

水草の花 31 

佐藤は公務員試験に合格し、 働きながら夜間大学に通っている。 山口は学校の先生になるために浪人中。 青山は好きなコーヒーをきわめようと カフェめぐりをしている。 優君はすごいゲームを作ると 専門学校ではりきっている。 短大に入った水沢さんは、 花…

水草の花 30 

今日、退院した。 1カ月もお世話になった。 靴をはいた。 足がやせて、ぶかぶかになっていた。 看護師さん達が見送ってくれた。 水沢さんが家までつきそってくれた。 自分の部屋がなつかしく感じる。「 良かったね。」「 うん ・・・ 水沢さん、あのときは…

水草の花 29 

水沢さんが帰ってすぐ、青山と優君が来てくれた。「 大丈夫か? 」「 うん、大丈夫。」 かなり心配してくれていた。 一緒によく遊んだゲームの話などしていたが、 おもいきって、これまでのことを話した。「 優が誰でも気がつく障害だから、いろいろあったよ…

水草の花 28 

水沢さんは、毎日、お見舞いに来てくれた。 一生懸命、しゃべってくれた。 学校での話、本の話、花の話 ・・・ とても心が安らいだ。 血液検査の数値がかなり下がった。 歩けるようになった。 水沢さんも喜んでくれた。 体が楽になるにつれて、 よりいっそう…

水草の花 27 

次に目がさめたのは翌日だった。 水沢さんが座っていた。「 ・・・ 私のせいで 、」 うつむいて言った。「 ごめんなさい うっ うっ ごめんなさい ・ ・ ・ 」 泣きながら声をおし出す。「 僕 が 悪 か っ た ん だ 。」 声がかすれてうまくしゃべれない。「 …

水草の花 26 

「 もう大丈夫だからね。」 知らない人の声がする。 白い部屋でねている。 緊急入院だった。 点滴の管が腕と、足のほうにもある。 3日間、意識がなかったと 看護師さんから聞かされた。 肝臓の病気だった。 血液検査の数値が 3000 に近い。 かなり悪か…

水草の花 25 

気がついたら、 自分の部屋のベッドで天井を見ていた。 気持ち悪い 吐きそうだ 眠れない 吐く 気持ち悪い 吐く まわりが明るくなってきた。 また吐く。 もう30回ほど吐いただろうか。 意識がもうろうとする。 目があかなくなってきた。「 兄ちゃん、 兄ち…

水草の花 24 

徐々に、水沢さんの口数が減ってきていた。 ここは頑張りどきだと僕は意気込んだ。 水沢さんのためだ ・・・ 強気だった。「 元気だしてね。」「 うん、ありがとう。 」「 次はいよいよトイレのドアだね。」「 ・・・ 」「 頑張ろうね。」「 ・・・ うん 」 …

水草の花 23 

チャレンジは続いた。 苦手さの軽いものから、触ってはがまんを繰り返した。 水沢さんはよく頑張った。 ひとつひとつ、ほんとうによく頑張った。 僕は気をそらすことしかできなかったが、 僕なりに一生懸命だった。 佐藤が聞いてきた。「 長谷川、水沢さんと…

水草の花 22 

スーパーに着いた。 花のコーナーに行く。 水沢さんは、 他人が触ったものを触ることができない。「 この切り花、水から出ていてしおれそうなんだ。 水沢さんがもどしてあげてほしいんだ。」「 ・・・ かわいそう 、」 水沢さんは、素手で花を水につけた。「…

水草の花 21 

大好きな人を助けたかった。 強迫障害について調べた。 有名人のなかに、 強迫障害を公表している人がいることを知った。 苦しいことを受け入れて頑張っている。 突然、治る人も、ずっと治らない人もいる。 治す方法に「 曝露反応妨害法 」というのがあった…

水草の花 20 

水沢さんは、ゆっくり、少しずつ話してくれた。 私立中学校の受験に失敗したこと。 そのせいで御両親が険悪になり、離婚。 おかあさんにひきとられるが、「 あなたのせいでこんなことになった 、」と責め続けられた。 水沢さんも、自分自身を責め、気がつい…

水草の花 19 

駅からバスで、バラ園に向かう。 座わると、水沢さんが近くて照れる。 バラ園は広くて空が大きい。 いろんな色のバラがたくさん咲いている。「 もう少し時季が早かったら、 もっとたくさん咲いてたんだけど、」「 これでも充分すごいよ、 絵の中に入ってるみ…

水草の花 18 

「 すごくいい絵、キレイに描けてるね。」 香川亜美が話しかけてきた。「 最近、変わったね。」「 え、どこが? 」「 ・・・ まあ、いいでしょ。」「 気になるなあ、」「 あのとき、ひどいこと言ってごめんね。」「 え、いや、そのとおりだから、」「 ずっと…

水草の花 17 

「 長谷川君、昨日はほんとにありがとう。」「 あ、水沢さん、楽しかったね。」「 ヒマワリの絵もかざったよ。部屋が明るくなった。」「 良かった、なんか嬉しいよ。」「 それでね長谷川君、バラ園に行ったことある? 」「 小さいときにつれていってもらった…

水草の花 16 

ある絵を、水沢さんはずっと見ている。 僕は先に見終わり、出口についた。 ミュージアムショップで、ゆっくり水沢さんを待つ。「 長谷川君、ありがとう、いっぱい見れた。」「 うん、良かった。おなかすいたから食べていこう、 ここのカレーおいしいんだ。」…

水草の花 15 

日曜日の朝、10分前に駅に着く。 水沢さんがギリギリに来る。「 ごめんなさい、待たせちゃったよね。」「 大丈夫、さっき来たところ。」 早速、電車に乗る。 少し混んでいる。 水沢さんは頑張って立っている。「 つり革、もたないの? 」「 うん、へいき。…

水草の花 14 

美術部では、次の部長を決めていた。 立候補者の名前を書いて投票する。 山口が選ばれた。( あれ? 僕の名前も一票入ってる。) 佐藤が言う。「 おまえは、まわりが見えてないからダメだね。」 立候補もしてないのに、なぜそんなに厳しいのだ。 でもそのとお…

水草の花 13 

点で絵の具をのせていく。「 不思議な描き方 ・・・ 」「 そうでしょ、少し離れて見て、」「 輝いてる! 」「 おもしろいでしょ。」「 うん、びっくりする。」 点描はスーラが追求した技法だ。 絵の具は混ぜると光が弱っていく。 混ぜないで、点の形でとなり…

水草の花 12 

それからの放課後は、 絵と水沢さんと過ごす時間になった。 水沢さんは花の話をよくしてくれた。 春はレンゲ 夏はポーチュラカ 秋はキンモクセイ 冬はビオラ 小さな花がとくに好きと話した。 僕は花の種類がよくわからなかったが、 ユリがキレイで好きだった…

水草の花 11 

次の日、キャンバスとイーゼルをかつぎ、小川に向かった。 なんとかこの感動を表現したい。「 あ、長谷川君、」「 水沢さん、昨日はいろいろ教えてくれてありがとう。」「 え、そんな ・・・ 、長谷川君、絵を描くの? 」「 うん、美術部で描いてる。 今度、…

水草の花 10 

一緒にコンビニに寄ることにした。 僕はコーラ、水沢さんはジャスミンティ。 先に水沢さんがレジへ。「 ありがとう。」 水沢さんが店員さんにお礼を言っている。( え、お礼なんて言ったことないよ。水沢さん、えらいなあ。) 僕も言おうとするが言えなかっ…

水草の花 9 

久しぶりに遊歩道を歩く。 日向と木陰のバランスが気持ちいい。 空気が違う。 小川の音に癒される。 絵になるところがたくさんある。 どこにしようかまよう。( あれ? あそこにいるのは水沢さん? ) 水沢さんが小川を見ている。「 魚でもいる? 」「 あ、長谷…

水草の花 8 

次のテーマを考えるときが来た。夏に県の高校展がある。佐藤と山口は抽象画に挑戦する。僕は点描で光を表現したい。校内をまわるがピンとこない。廊下の向こうに稲富さんがいる。窓の外の風景を描いている。「 頑張ってるね。」「 あ、先輩、こんにちは。」…

水草の花 7 

帰りの電車で、青山 優君に会った。優君は、中学1年でクラスが一緒になった青山幸一の弟だ。僕はこの兄弟が大好きだ。青山には何度も助けられた。優君は脳性麻痺があり、手足の動きとしゃべり方に個性がある。2歳年下なのに、僕よりも年上に感じる。今日も…

水草の花 6 

今日は日直当番。もうひとりは水沢さん。やっぱり何か堅い雰囲気。授業の号令は僕が担当。声はよくとおるほうだと言われてる。終わって黒板を消しにいく。水沢さんが手をすべらせて、黒板消しが床に落ちた。水沢さんはそのまま考えている。僕はひろってかわ…

水草の花 5 

佐藤とクラブへ向かう。美術部は山口が誘ってくれた。1年前、とりあえず見学だけ とついていった。美術室に入って驚いた。迫力、熱、先輩達の空気がすごかった。少し描いてみたらと木炭をわたされた。誉めてもらった。すぐに入部を決めた。琵琶湖の夕焼けに…

水草の花 4 

高校2年になった。香川亜美とは別のクラス。クラブの友達の佐藤 誠が一緒だ。佐藤はなにかとアドバイスをしてくれるが、いつも内容が厳しい。しかし香川亜美のことは一言もなかった。その気遣いがありがたかった。とりあえず、出席番号順に席についた。とな…

水草の花 3

2018/04/07 23:15 美術部では、毎年、新入生勧誘のチラシを配る。クラブの友達の山口健二は面倒見が良い、でも少しずれていて気が楽だ。一緒に入学式終わりの新入生のところに向かった。ひとり、気になる子がいた。チラシをわたした。ようやく、春休みが終わ…

水草の花 2

休むことがなかったクラブを2日休んだ。顔をあわせるのが つらかった。でも、絵はまだ完成してない。失恋は2度めだった。描こう。忘れるために集中しよう。わけがわからないが、「 大丈夫 」と思いこむことにした。3年生が卒業して、今はいない。よけいに…